9/7に開催された第1回「お悩み"あんちょこ"相談会 」質問6
【質問】「コロナで家にいることが多いので、空いた時間に本を読もうと思っています。これまで読んだことのないジャンルの本が読みたいのですが、どうやって見つければいいのでしょうか?」
■今は、その本と「出会う」タイミングではないのかもしれない
加藤:「どんな本を読めばいいのか」という質問だけど、「なんでもいいんじゃないの?」がかとうの回答かな。とはいえ、本とは・・・やっぱり当たり外れや、「べつに今読まなくてもよかったな」みたいなことがあるから、その時に途中でやめる勇気を持つことが大事だと思います。
角田:僕も全く同じことを言おうと思ってた!
本が読めない人って、「読まなきゃいけない」と思ってるんだよね。でも、僕の『読書をプロデュース』という本にも書いてあるんだけど、むしろ「読まなくてもいいや」って投げ捨てる勇気が必要なんだ。
その上で最後まで読めた本が「面白い」ということでいいんじゃないかなと思う。「買ったんだからもったいない」みたいに考えないほうがいいと僕も思います。
加藤:それに、本は安いですからね。
角田:高くても2000円しないよね……と言いながら『仕事人生あんちょこ辞典』の価格は2700円+税だけど。でも2冊分以上の分量があるからね。
加藤:本が本として出版されているということは、出す価値があると著者も編集者も版元も思ったわけですけれど、それとは別に「自分との相性」ってやっぱりあるじゃない。その意味でずっと相性の悪い本もあれば、いつかタイミングが訪れる本もあるよね。
角田:それで言うと、僕はガルシア=マルケスの『百年の孤独』に何回もチャレンジして、いつも読めななかったんですよ。20歳ぐらいで初めて手に取って、それから5年ごとぐらいにチャレンジしてたんだけど、いつも結局最後まで読めなかった。
でも40歳ぐらいになってから読んだら、これが面白くて、あっさり読めちゃったんです。こんなふうに、読めなかったところから何度も繰り返して、読めるに至るまでの期間が「読書」だとしたら、それは読書体験として一番面白いんじゃないかな。
加藤:なるほどねぇ。
ガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』
角田:歳を取ってからようやく読める本なんて死ぬほどある。もうひとつ例を挙げると、ハタチぐらいの時に予備校の古文の先生が「鷗外は『渋江抽斎』が一番面白かった」って言ってたから、「そんなに面白いのか?」と思って読んでみたんだけど、これが当時は全然読めないわけだよね。
というのも、『渋江抽斎』ってただの日記で、「この時に何を食べて、誰と出会って」というのが延々と繰り返されてるだけなんです。それをその予備校の先生は「一番面白い」と言ってて、当時は意味が分からなかった。
ところが、これも数年前に読み返したら最高に面白かったんだ。
加藤:お、そうなんだ。
角田:「森鷗外、天才だな」と思ったけれど、それはやっぱりハタチじゃ分からないんだよ。森鷗外が『渋江抽斎』を書いたのは50代の頃だから、やっぱり50になると分かることがあるんだと思う。
「そういうことがある」という体験まで含めて「読書」なんだと思う。だから、読めない本があったら積ん読にして、本棚に置いておくといいんじゃないかな。
加藤:最近は新刊点数が多い分絶版になる本も多いですが、それでも図書館や古書も含めて、昔の本に出会いやすい環境になっていることも事実ですから、逆に一回手放してしまってもいいと思っています。
森鷗外『渋江抽斎』
■レコメンドとは、相手が気づいていない選択肢を提示すること
加藤:ワタクシ図書館が好きなんですけど、図書館の司書さんはそういうことをレコメンドするのがお仕事なので、虚心坦懐に聞いてみるのも面白いかも。お金もかからないしね。
角田:加藤君は、司書さんみたいな人と仲良くなるのが昔から好きだよね。僕なんかは「自分で探します」と言っちゃうタイプだけど、確かに司書さんとかと仲良くなるのはいいよね。
加藤:相手が「薦めてほしい」と求めているものをそのまま渡すのはあまり面白くないとするなら、話の流れが分かった上で、ちょっと外して「じゃあ、これどうですか」みたいに薦めてくれると嬉しいよね。
そういう、自分では気づけない選択肢を発見してくれる人は、本だったら司書さんやベテランの書店員の方だったり、本好きの友達であるとか、いろいろな人に訊けると思うんです。(『仕事人生あんちょこ辞典』の「レコメンド」の項も参照)
角田:高校時代の僕にとって、「本好きの友達」とはまさに加藤君だったわけだけど、「この人、面白いなあ」と思ったのは、出会った当時に村上春樹を薦められたんです。で、その時に一緒に薦められたのが、漫画の『超人ロック』だったんですよ。
聖悠紀『超人ロック』
加藤:名作ですね。
角田:「村上春樹と『超人ロック』を同時に薦めるヤツ」というところにしびれたんだよね。
加藤:村上春樹さんに関して云うと、初めて読んだのは中2の時で、塾の国語のテストに出てきたんですよ。その時、文章に感激しちゃって、途中で手が止まってさ。そこからはテストに答えられなくなった……という出会い方をしたわけです。
角田:僕も同じ体験をしたことがある。遠藤周作の『海と毒薬』が問題文で出て、問題を解くよりもその先が気になっちゃった。
加藤:ああいうのって、テストとしてどうなんだろう(苦笑)。
角田:「受験生が答えたくなくなる試験」だったってことだけど、それもやっぱり文学の力だよね。
(構成:甲斐荘秀生)
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