10/13に開催された第2回「お悩み"あんちょこ"相談会 」質問2
【質問】愛宕さん(東京都、30代、IT企業勤務)
「現在取り組んでる仕事が会社のメインの仕事ではなくて、利益に繋がらないせいか、何年も給料が上がりません。このままこの仕事していてもしょうがないという思いがあります。もう転職したほうがよいんでしょうか」
■会社を辞めるのって、やっぱり怖い
角田:加藤君がこの質問者の人みたいな状況だったら、転職します?
加藤:まず前提として、「就職」と「就社」は違うと思うのだよ。
「就職」とは「その職業に徹する」ことなので、今の会社との相性が悪いのであれば、会社を移ることは選択肢としてはあり得ますよね。
一方で今の会社が好きで居続けたいのだけれど、今は端っこの仕事を割り当てられている……というのなら、雌伏何年で次のタイミングを待つか、別の仕事をさせてもらえないか上司や人事に相談するのもアリなんじゃないですか。
角田:僕は5年前にTBSを辞めちゃったじゃないですか。それで、「会社を辞めたのに、またに会社に入ろうと思うのは何でなのかな?」って少し思ってるんだ。
加藤:どういうこと?
角田:僕は基本的にアイデアはよく思いつくんですよ。その中には当然、関わる人を増やして、会社のシステムにしないと回らないであろうビジネスのアイデアもあるわけだよ。
でも、そのために会社を作るなら、一周回ってTBSでやればよかったじゃないか。
組織が嫌だからTBSを辞めたのに、新たな仕事をやってると「組織が必要だな」って思うことがある。その時に「いや、組織を作るのは止めよう」とストッパーがかかる自分がいて、だからこそ、そこから消去法的に自分一人でアイデア、プロデュース、著作とかで生きていこうと思っている面がある。「組織を辞めたんだから、もう組織は作らない。ならばどう生きる?」の辺りに僕の行動の原理がある気がするんです。
自分が組織の端のほうにいると思うなら、自分が中心になるような個人になってしまう、あるいは組織を作ってしまえばいいと思ったりもするのだけど、それはやっぱり怖いのかな。
加藤:まあ怖いよね。
角田:僕もTBS辞める時怖かった。それで言うと、僕は最近家庭菜園を始めたんです。カボチャとかを作って苦戦してるんだけど、カボチャって選別しないと大きくならないんだよ。
加藤:そうなんだね。
角田: Aのカボチャを生かすためには、BとCを切らなきゃいけないわけだね。
そうすると、会社組織と自分のことを思い出すんだよ。「BとCを捨て馬にしてAだけ育てよう」みたなのが嫌だから会社を辞めてフリーになったのに、家庭菜園を始めるとBとCというカボチャを殺さないとAのカボチャが育たない。それが嫌で、全部生かそうと選別しなかったら、結局どれも育たなかったんだ。
加藤:なるほど。
角田:その後で、農家さんのところに泊まる機会があったから、「カボチャは全然育たなかったんだけど、何が悪かったんですかね」みたいに聞いてみたら、プロの農家でも「何が悪かったのかわからないけれど、この畑は今年はダメだった」みたいことがあるんだって。
プロでもよ?
その場所では専業農家はどんどんいなくなって、農家さんはすべてサラリーマン兼業らしいんだけど、次の世代になると、もう農家も辞めてサラリーマン一本になろう、って話になってしまうんだって。確かに原因も分からずに農作物が全滅するようでは、リスクが大きくて生きていけないよね。
そう考えると、「今の会社がダメでも次の会社を目指そう」というのはリスクヘッジみたいなものだし、「フリーで生きていこう」っていうのは少し「農家に戻れ」みたいなところがあると思うんだよね。
加藤:そうだね。組織のいいところは風邪をひいたら休めることだからね。
角田:僕みたいなフリーランスは逆に、休んでしまうと来月の入金がなくなるような問題が現実にあるわけだし。
■辞める前に、「社内で兼業」してみる
加藤:そう意味で言うと、ポジティブな意味での「副業」というか、農業で言うと二毛作みたいなものが、サラリーマンの人でもあっていいんじゃないかと思うんです。元々の質問に戻ると、今の仕事で会社の端っこなら、「社内兼業」みたいなものもあり得ると思うんですよ。
角田:そうだよね。違う部署との間でプロジェクトをやるとかさ。
加藤:それもそうだし、正式な命令系統から外れて、頼まれてもいないのに他の部署や他の人の仕事を手伝ってしまうような「勝手な兼業」もあり得るわけですよね。上から怒られるかも知れないけれど。
つまり、「会社を辞める、辞めない」という大きな判断をする前に、会社の中で自分が任されてることの他にもなにかやってみる。野菜で言うなら、メインはカボチャ農家なんだけど、例えばヒマワリ油を採りたいので向日葵も植えてみました、みたいなのもアリなんじゃないかな。
角田:確かに、辞める前に一回少しだけ他部署のことをやってみるのはありだね。
加藤:「異動」ということになると、「今の仕事か、次の仕事か」という「or」の話になるけれど、「and」でいいんだよ。
角田:「and」あるいは「with」だね。
加藤:ああ、そうだね。それを個人的に「公公私混同」と言ってるんです。
角田:「公」が二つなんだ?
加藤:角田君も同時にいくつかのプロジェクトが走ってるタイプじゃないですか。例えばAプロジェクトで知り合いになった人と、Aプロジェクトでは上手くコラボできないんけれど、たまたま自分にとって横で走ってたBのプロジェクトのほうだとすごくイケることって、あるよね?
それは「公と公を混ぜる」ってことになるでしょう。
角田:なるほど。どっちも「私」じゃなくて「公」だもんね。
加藤:会社でも、「労働時間の何割は別のことに充てる」みたいなのが制度化されているところがあるでしょう。それを自分でやるんだよ。
角田:実際、僕は制作の番組がなくなってしまったところからTBSの社内ベンチャーでgoomoって会社を作ることになって、その時には「制作局 兼務 メディアビジネス」みたいなことをやっていたわけです。結果、TBSを辞めてからは、制作局の花形でいたことよりも、制作局と兼務でメディアビジネスみたいなことをやっていた知見がものすごく生きてるんだよね。それまで営業なんか行ったことなかったのに、今は営業をガンガンできているのも、メディアビジネスのことをやってたからだしさ。
加藤:今の話は「会社員でいることのよいところ」だよね。番組がなくなってからgoomoを始めるまでには少し空白期間があったわけじゃない。それでも給料がでなかったわけじゃないから。
角田:そうだよね。
加藤:さらに踏み込んで、いくつかの仕事を重ねる感じができれば、あまり怖くないやり方ができる気がするな。
会社では、自分のやりたいことをそのままやらせてもらえる確率は高くないから、待ってるだけではなくてちょっとはみ出してやってみる、みたいなことができるといいのかも。
角田:「社内越境」してみるんだね。
加藤:そうそう。越境してみると、意外に「お前、そんなやつなんだ」ってお声がかかることもあるんじゃないかな。
角田:そうなると、経験が次のステップに生きてくるよね。
加藤:うん。「越境」まで行けないなら、「社内を散歩しろ」ってことかもな。探求学習で有名な市川力さんとお話しした時も、「フラフラする」みたいなことを強調されていたな。「目的を持たずに歩く」ことが大事なんだよ。
市川さんは歩くスピードの話もされていて、「ピューっていっちゃだめだよ」と言うんだ。
角田:駆け足だと見てないもんね。フラフラしてない。
加藤:何かを発見しようと思って歩くんじゃなくて、プラプラしてると「おっ」と見つかるものがある。そこに創造性のきっかけがあるんじゃないか?みたいな話をされていて、すごく納得したな。
角田:なるほどね。元々の質問者の方は、別の仕事を探したほうがいいか迷ってらっしゃるけれど、アドバイスとしては「探す」というよりは「フラフラしてみよう」ということですね。
加藤:いきなり移るのも怖いじゃないですか。実際にやる前に「知っている」ことは一つの力だから、「知ってからやる」みたいなことに少し時間を割いてみるのは、ありなんじゃないでしょうか?
■社内散歩、あるいはコミュニティの復権
角田:僕はどちらかというと「プラプラする」ことが苦手で、速く歩いていっちゃう感じする。
加藤:そういう意味で言うと、「プラプラする大義名分」が欲しいじゃない?何があるかな。
角田:僕の場合、メディアビジネスに行ったのは社内ベンチャーを募集してたからだったな。
加藤:そういう意味では、別に大義名分としてされていたわけじゃないと思うけど、やたらお土産を配ってる人がいるんだよ。仕事ではあまり関わりがない人にも「お裾分けです」って配る人が。
でも、食べ物をもらって「関係ないんでいりません」って言う人はいないから、社内散歩のお供としてのお土産ってのは、あるかもね。
角田:僕はそういうことをするのが苦手なほうだけど、できる人間にならないといけないって、3.11の時に思ったんだ。
加藤:それはなぜ?
角田:いつ地震がくるか分からない、という時に、「隣の人に醤油を借りれる」ぐらいの人間関係を復活させておかないといけないなって。
そういう意味では、職場の他部署の人とも、醤油を借りれるぐらいの関係を築いたほうがいいんだろうね。
加藤:そこでいきなり借りにいくのは難しいから、その手前でお土産を配る。
角田:「カボチャできたんで」って言ってお裾分けする。
加藤:よく知ってる人には手土産ってあまり持っていかないけれど、これから関係を作りたい人には手土産を持っていくでしょう?だから、手土産を持って社内をプラプラ散歩してみるといいんじゃないかな。
角田:そういうのがどんどんない社会になっていってるでしょう。会社もそうだよね。
加藤:ちょっと話は飛ぶけど、「コミュニティ」というものの考え方って、「醤油を借りる」というのも隣の人に借りにいくわけだから、距離で決められてるよね。
角田: 1キロ先には借りにいかないもんね。
加藤:だけど「社内散歩」みたいなことで言うなら、隣の部署だけでなくて、違うフロアに行ってもいいし、なんなら違うビルに行ってもいい。物理的な距離を超えてコミュニティを作ることができるはずだと思うな。
角田:昔は「なんで人事異動なんてするんだろう?制作にこれだけ向いてる人が営業に行ったってしょうがないじゃん」みたいに思ってたんだけど、今になって考えると、そういうものがあったほうが、きっと結果として「醤油を借りやすい組織」になるんだろうね。だから経営者は人事異動をするんだなって、今はなんか分かるな。
加藤:いわゆる「単線キャリア」、それしかやったことがない人ってなかなか辛いとも言うよね。
角田:僕も本当に番組しか作ってなかったけど、goomoでだいぶ変わったよ。それがなかったら今みたいに生きていなかったと思う。番組作りだけ面白く続けることはできたと思うけれど、極論すれば、お金をどうやって持ってきたらいいかを当時は分からなかったもの。
加藤:無駄になることはないってことだけど、話を戻すと、それを受け身で待ってるんじゃなくて、おせんべいを持って、散歩しにいきましょう。
(構成:甲斐荘秀生)
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