お悩み①「週1回のペースで企画をあげているのですが、既にネタが尽きてしまいそうです。どうしたら安定した品質のネタを量産できるでしょうか?」

9/7に開催された第1回「お悩み"あんちょこ"相談会 」質問1

【質問】「7月から、メーカーのECサイト事業部のコンテンツ企画担当になってしまいました。週1回のペースで企画をあげているのですが、このような短期サイクルで企画を考えた経験もなく、既にネタが尽きてしまいそうです。やる気が無いわけではなく、せっかくなら面白いものを、という意識もあるのですが、コンスタントに企画をあげるということに対してとてもプレッシャーを感じています。どうしたら安定した品質のネタを量産できるでしょうか?凄く困っています。ご教授頂けますと幸いです。よろしくお願いします。」


 ■テレビ番組は、3週先のことは考えていない

加藤:よろしくお願いします。

角田:僕ら、高校の同級生なんです。1年A組だったよね。

加藤:A組(ぐみ)じゃなくて、A組(くみ)ね。

角田:加藤君は昔からこんな風にめんどくさいんですよ。というわけで35年来の知り合いなんですけど、今回初の共著『仕事人生あんちょこ辞典』を刊行させていただきました。

 この本が、「皆さんの悩みに一つずつ答えていく」という形で編集された辞典なので、今回の出版記念イベントも「お悩み相談会」にしちゃおうということで、「あんちょこ相談会」と題して配信しています。

 ということで、早速質問に答えちゃいましょう。

加藤:あなたは話が長いから、雑談している暇ないからね。

角田:むしろ、頂いた質問への回答の中に雑談を織り込んでいくんで。ぼくは「なんでも」答えますけれど加藤君はサラリーマンなんで立場上……。

加藤:「大体」答えます。

角田:そんな感じでよろしくお願いします。

 さて質問ですが、この文章から鑑みるに、凄く悩んでいて、凄くちゃんとされた方を一発目のお悩みに選んじゃいましたね。

加藤:(爆笑)。

角田:整理すると、「コンテンツを毎週サステナブルにあげるにはどうすればいいのか」ということですね。「メーカーのECサイト事業部のコンテンツ企画」ということだけど、そりゃ毎週ネタなんてないですよねぇ……。

加藤:それこそテレビのレギュラー番組を毎週制作していた角田君に聞きたいんだけど、毎週のネタや企画は、ストックがあったの?

角田:TBSに入社1年目でまだADだった時、「びっくり人間」が毎回登場するような番組をやったんだよ。そういう番組、昔あったでしょ?

 企画が立ち上がったときには、「こんな超人がいる」みたいなネタが8個書いてあって、「8個もあるから凄いな」と思ったんだけど、そこから番組の制作が始まるまでの3ヶ月、初めの8個から増えないんだ。

加藤:(爆笑)。

角田:10月スタートの番組なのに、8月になっても9月になっても8個のまま。まだADでテレビ制作の状況があまり分かってないから「だんだん増えていくんだろう」と思ったんだけど、本当にそのまま10月の番組スタートになったわけ。で、1回の放送で4人分の「超人」ネタを使っちゃうんだよ。

加藤:ということは、2回の放送分だ。

角田:でしょう?「3回目の放送、どうするのかな?」と思ったら、2週目くらいで、「来週どうしようか」って言い出してさ。

加藤:(爆笑)。「さっそく困ったぞ」って。

角田:そう。それを聞いた時に「うわ、テレビっていい加減だな」って初めて思った。そもそも世の中に超人なんてそんなにいないんだよね(笑)。

加藤:意外にネタを貯めていないんだね。

角田:レギュラー番組の場合は大抵貯めてないと思う。その場で考えてることが多い。

 僕がディレクターだった『金スマ』を例に分析すると、あの番組は隔週の土曜日に収録なのね。

加藤;二週撮りってやつだ。

角田:金曜日の21時にオンエアで、翌日の土曜日に収録。でも視聴率は月曜日まで分からないから、それを待って火曜日に会議。そこから翌週の土曜日に収録するネタを考えてた。実質10日間で2週分の収録のネタを考えてたことになるね。 


■「初出し」を敢えて避ける

加藤:元々の質問に戻ると、この質問者の方は「週一のレギュラー番組」になるわけだよね。テレビのレギュラー番組の場合にも「面白い回」と「普通の回」があるという話をしていたけど(『仕事人生あんちょこ辞典』「私」の項目を参照)、その比率ってどれくらいなのかな?

 この質問者の方は、「ずっと続けるためには毎週ドッカンドッカンとウケないといけないんですか?」ということも訊きたいんだと思う。レギュラー番組を続けるにあたって必要となるクオリティの幅、と言い換えてもいいね。

角田:やっぱり、つまらないものが続くと存続がヤバいから、キラーコンテンツみたいなものは「何ヶ月に一回か出さないとマズいよな」とは思ってるんだけど、実際のところ、キラーコンテンツなんてそうそう無いよね。

『金スマ』でやっていたことで言うと、普通、あらゆる番組って「初出し」を喜ぶんだよ。

加藤:「初出し」ってなんですか?

角田:「いままでメディアに出てこなかったあの人が、テレビ初登場」みたいなこと。

加藤:ああ、なるほど。「初物」だ。

角田:そう。「初物だと数字(視聴率)がとれる」と思ってるから、普通の番組は、その時に話題の人を初物で出そうとするんだよ。

 例えば、麒麟の田村(裕)さんの『ホームレス中学生』がヒットしたじゃないですか。あの時も「田村さんをどこの番組が初出しするか」をテレビ局は競うわけだよ。

 でも「そこで勝負すると負けちゃうな」と思ってたから、『金スマ』ではやらないんだよ。それじゃあどうするかというと、むしろ初物に触らないことにしていた。そういうのは『おしゃれイズム』(日本テレビ系列)みたいな他局のトーク番組でやってもらおうと。

 というのも、例えば「田村さんの『ホームレス中学生』が売れている」と言っても、本を読む人口ってそんなに多くないし、テレビを見ている人みんながその話題を知っているわけでもないでしょう。

 だから、わざと3ヶ月から半年待って「みんなが知っている」状態になった後に、「『ホームレス中学生』の、これまで隠されていた過去とは!?」「金スマで〈完全版〉をお送りします」みたいな切り口で取り上げるみたいなことをしていました。

■世間と自分とをどう接続するか

加藤:なるほどねえ。今の話で言うと、質問者はメーカーの方だから、競合他社の商品をそのまま取り上げるのは多分六つかしいじゃないですか。なんだけど、合気道じゃないけど、競合他社の商品の状況を踏まえて、みたいなのがあるってことかな?

角田:それで言うと、今あるメーカーのコンサルをやってるんだ。その会社の商品でTwitterアカウントの運用をやっているんだけど、全然バズってないんだよ。

 なぜかというと、「商品の紹介」だけをやってるの。本当にいい商品なんだけど、アカウントで商品の紹介しかないと退屈じゃん。だからあまりリツイートやフォローされないわけです。

 そこで僕が言った案は、例えば「(当時の)SMAPの5人に対して、自分達の商品のうちどれをオススメするか」をTwitterに投稿しようというものなんです。

 赤・青・黄と色のバリエーションがあったとしたら、「木村拓哉さんには青がオススメ。~~」「中居正広さんには赤~~」みたいなことを投稿したら、SMAPファンはその投稿を読むよね。それで彼らの肖像権を侵害しているわけでもない。

 この応用は何にでも利いて、サッカーの日本代表が勝ったときには、じゃあ「サッカー日本代表の○○さんに合ううちの商品はこれだと思います」とつぶやくだけで「いいね」数が増えると思う。

 これを、質問者の方の悩みに当てはめると、「世間と自社の商品をどう接続するか」で企画を考えるということだよね。自分のところの商品だけで企画を作るとネタが尽きちゃうんで、それと「いま世間で流行っているもの」との掛け算をする。

 番組作りでは、そんなことばっか考えてるよね。スイーツが流行っているなら、「スイーツをうちの番組ならどの切り口で取り上げるか」とか。

加藤:今回の質問者の方は週一という話だけど、コンテンツをレギュラーで続けていく上でテレビ番組の作り方を参考にできることって、他にもある? 例えば「○○という番組のこの方法を使ってみたら」みたいな。

角田:それなら、新聞の「ラテ欄(ラジオ・テレビ欄)」ってあるじゃないですか。あの番組表を会議ではずっと見てた。番組名の隣に視聴率が書いてあるわけよ。

加藤:プロ用だね。

角田:それを「日報」って言うんだけど、会議前にそれを配って、みんな見てるのね。視聴率が良かった番組名を赤く塗ったりしたりして。

 それを見ると、「あ、いまマツコ・デラックスさんって本当に人気なんだね」とかって分かるわけじゃない。そうすると「うちの番組ではマツコさんで何をやろうか」「うちの番組にはマツコさんは出れないから、それならオネエキャラの新しい人を発掘しようか」みたいなことを考えはじめるわけだよ。

 つまり、流行ってるものからどう敷衍(ふえん)して企画を作っていこうか考える時には、「一個をパクる」だとなかなか難しいんだよ。

 だから、なんとなくマップ的に「今世間では何が来てるのか」を掴むためにテレビ欄を使ってた、いい意味で言うとね。悪い意味で言うと、「テレビで流行ってるもの、何?」になっちゃうわけだから、テレビがどんどん袋小路に入っている、タコつぼ化している問題点でもあると思うけどね。


■商品の裏にある「ナラティブ」を見せる

加藤:メーカーの人にありがちなことは、商品の「完成形」を見せたいじゃないですか。けれどテレビってわりとメイキングやプロセスを画にするじゃん。その辺のやり口に関して何かありますか?

角田:質問者の方のメーカーの詳細がわからないから安直には(あんちょこ辞典だけに)言えないんだけど、本当はメーカーさんもプロセスを見せたほうがいいと思うんですよ。「この商品ができた時に、こんなところを苦労しました」ってことを、彼らは隠しがちだよね。

加藤:はいはい、分かります。

角田:できあがった商品のできあがった能力だけを語りがちなの。でも、それって『プロジェクトX』的な視点から言うと、もったいない。「こんなに苦労したから」ってところにこそストーリーがあるわけじゃんか。

 それで言う「苦労」って、べつに技術開発だけじゃなくて、「A部長とB部長が滅茶苦茶もめた」とか、実はそっちのほうが面白いじゃないですか。そういうことって、メーカーさんはまあ言わないけれど、でも本当は言えるようになったほうが、メーカーさんのプロダクツが売れることとコンテンツの面白さがくっつく。

 法律に違反するようなことじゃなかったら、もうちょっと開示したほうが面白くなるんじゃないかな、と思ってるな。

加藤:その意味では、この『仕事人生あんちょこ辞典』の「ルサンチマン」の項目に「ルサンチマンはエンドロールで解消される」って話が書いてあるじゃない。

角田:映画や番組の最後に、スタッフの名前がばーっと流れるやつですね。『仕事人生あんちょこ辞典』の最後にもエンドロールを設けています。

加藤:逆に言うと、「商品の○○ストーリー」みたいなものが語られる時、出てくる人が少ないなあと思ってるんです。

 例えば、そういう意味での「エンドロール」を一回作ってみて、それをじーっと眺めてみると、「あ、この人」ってネタが見つかるかも。主役・脇役に限らず人はいっぱいいるわけだからさ。

角田:なるほどね!ハリウッドのエンドロールって滅茶苦茶長いじゃん。あの名前の一人一人に「お前、どこに関わって、どこが苦労したの?」って毎回訊いていくだけで、1000回分くらいのレギュラー番組になるよね。

加藤:そうそう!結局商品のガワを見てる人が多いんだけど、実は商品の中身やプロセスについての話、つまり「ナラティブ」もある(『仕事人生あんちょこ辞典』「キャリアデザイン」の項目を参照)。だからネタは角田君が言うように世の中=外にもあるし、今話したように中にもある。それをリストアップしてみるだけでも、ネタに溢れて「うわー、週一って年に52回しかないっすね!」ってことになったり、「じゃあ毎週2つやります!」みたいになったりできるよね。

■企画の良し悪しを自分だけで判断しない

角田:そうなると、この会場にも『考具』という加藤君のベストセラーが置いてありますけど、「リストアップの仕方にいい考具」ってあるんですか? 本の中に出てこなくてもいいけれど。

加藤:まず、「いいものだけをリストアップしない、出さない」ってことですね。

角田:おお、深い!

加藤:まずは全部書く。めんどくさいけど。

角田:そうか、いい悪いは判断しないで全部書くのね。加藤君、昔からそれやってるよね。凄く時間がかかるから、周りの友人達はめんどくさいんですよ。でも、確かにそれは大事だよね。

加藤:要は「価値判断を後にする」のが大事なんです。

角田:それはさっき僕が言ったテレビ欄の話と一緒だ。いい悪いは後にして、まずは全部見るの。

加藤:企画担当をされている方は、おそらく「ブレインストーミングの4つの原則」というものをご覧になったことがあると思います。あれの最初に「批判厳禁」って日本語で書いてあるんですけど、正確に言うとちょっと訳の間違いがある。本来は「批判してもいいけれど、後でね」ってことなんです。

角田:なるほど。最初に批判されたら引っ込めちゃうもんね。

加藤:それをデザインシンキングで有名な米IDEO社さんは「Defer Judgment」って云い換えているんですよ。deferって「後にする」とか「持ち越す」って意味ね。

 これが結構六つかしくて、自分が書いたりタイプしたりするものって、くだらないアイデアをタイプしてると悲しい気分になるので、その場で「ああ、これはいいや」って、捨てたくなっちゃう。でも「うおー、くだらねー!!」って云いながら打ち、「くだらねー〜つまんねー〜」と云いながらも、いっぱい書き出して、その後で「いいのあるかな?」って探す。

 そうやって作業のステップを変えるだけでも、意外にいいアイデアってあるんじゃないかな。

角田:うん、あるよ。つまり、その「つまらない」ってこと自体に、僕は面白くなっちゃう。

加藤:それもあるし、自分でネタを判断するのって結構怖いんだよ。自分が「面白いな」と思うものが会議ではスルーされたりとか、自分では「紙の無駄で、もうゴメンナサイ」って企画が滅茶苦茶ウケたりって、プロの世界でもあるよね。

 だから、自分ひとりだけで候補を出して、自分ひとりだけで選んじゃったものをその後で人に見せるのは、実は機会損失になっている。

角田:もったいない。

加藤:どうせ書くなら、恥ずかしいけれど全部書いて、皆で見て、いいのだけを選ぶ。その時には「ダメなアイデア」はなぜダメかを詰めなくてもいいよね。ダメなものも多いけれど、それには触れない。

角田:貶さないんだね。

加藤:いいのだけをピックアップすれば誰も傷つかないので、いいアイデアが意外にいっぱいあるかもね。

角田:「ネタ、結構あるじゃん」って思うだけで、担当者の方のプレッシャーも減りますよね。そうすると、面白い方向にどんどん回っていくかもね。

(構成:甲斐荘秀生)

仕事人生あんちょこ辞典公式HP

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